ふるさとの国郡

12. 東京都

東京都 <武蔵国・伊豆国> : 東京市の区域は幕末の町奉行支配地(江戸府内)であった

国の成り立ちの概況

* 武蔵国 (埼玉県・東京都・神奈川県) [←埼玉県全域と東京都全域、および神奈川県の一部]

埼玉県の項で掲載したものを再掲するが、武蔵(むさし)国は東海道の東国にある大国で近世の関八州(関東8ヶ国)の一つである。延長5 (927)年の律令国家の法典である「延喜式」には21郡が見られる。
武蔵国の国府および国分寺は古代の多摩郡府中にあったが現在の東京都府中市にあたる。武蔵国の21郡は近世初期の利根川の流路変更により、下総国の葛飾郡を流れる現在の江戸川(旧太白川)が利根川本流となり、河川の東側を下総国葛飾郡とし、その西側の区域を武蔵国葛飾郡として編入したため近世には22郡となって幕末まで続いた。
従って近世江戸時代に葛飾郡は下総国と武蔵国の両方に隣接して同名の郡が存在していた。

* 伊豆国 (東京府) [←伊豆国の伊豆七島のみと、小笠原諸島]

伊豆国のことは静岡県の項で述べるとするが、伊豆国の内、離島部分の伊豆七島には古代から近世の江戸時代には郡は設置されていない。


1. 江戸から東京への郡区町村編制

 明治になって京都に対して「東の京」と言うことで、江戸は東京と改称されたのに伴い、幕末に江戸に置かれた江戸府を東京府と改称した。
明治4(1871)年の廃藩置県により豊島郡全域、武蔵国葛飾郡の南部、足立郡の南部、荏原郡の4郡をもって行政区画としての東京府が設置され、多摩郡の一部(後の東多摩郡区域)を神奈川県から東京府多摩郡として編入した。
当時の東京府の区域は現在の東京23区とほぼ同じ区域で発足したのであった。

 明治12(1879)年に東京府は、「郡区町村編制法」の施行により豊島郡を南と北の2郡に分け、さらに府県の確定で埼玉県と東京府に分かれてしまった足立郡の東京府の区域を南足立郡とし、同じく東京府の葛飾郡を南葛飾郡と改称した。また、神奈川県多摩郡から東京府に編入した区域を東多摩郡と改称している。
と同時に郡区町村編制法の施行により豊島郡・葛飾郡・荏原郡の内、幕末の御府内(江戸城下)であった区域を、15区に分けて区制を敷き郡から独立させた。その中には、江戸時代に関東郡代の支配下にあった葛飾郡の中にありながら、江戸城に近い本所や深川は、江戸市街地の一部として町奉行の支配下に置かれていたこともあり、独立した区にしている。郡から独立した東京の15区は、豊島郡の区域から江戸城があった皇居を含む麹町区や、神田区・日本橋区・京橋区・麻布区・赤坂区・四谷区・牛込区・小石川区・本郷区・下谷区・浅草区の12区と、豊島郡と荏原郡の一部(白金村のみ)から芝区、葛飾郡からの本所区・深川区の合計15区であり、それぞれの区を東京府の直轄とした。
その結果、東京府は東多摩郡、南豊島郡、北豊島郡、南安達郡、南葛飾郡、荏原郡の6郡と東京の15区となったが、郡制を敷いていない伊豆七島の島嶼も静岡県から移管され、小笠原島庁も設置の地方編制となった。

 

2. 東京市の誕生から東京都へ

 明治12年の15区は、明治22(1889)年の市制・町村制の施行にあたり、一つの市となり「東京市」が誕生した。当時の東京市の区域は上記の東京15区であったが、この区域は江戸府内と言われた幕末の町奉行支配地とほぼ同じであり、明治33年の地図に示した範囲である。
この東京市は、現在の千代田区、中央区、港区、文京区、台東区の全域と、新宿区、墨田区、江東区の一部の区域であり、今の新宿駅周辺や渋谷駅周辺、品川駅は入っていない。
一方、神奈川県区域になった多摩郡区域は明治12年に西多摩・南多摩・北多摩の3郡に分けられたが、明治26年に東京府に移管されて通称「三多摩地区」などとも言われている。また、明治29年の郡制による再編により南豊島郡と東多摩郡が合併して豊多摩郡となり、その結果東京府は一覧表のように、1市(市制特例市)と8郡および島嶼部に再編された。

 その後、関東大震災後の東京がほぼ復興した昭和7(1932)年には、東京市域の大幅な拡大が行われた。
豊多摩郡から淀橋区、渋谷区、中野区、杉並区、南葛飾郡から向島区、城東区、葛飾区、江戸川区、南足立郡から足立区が作られ東京市に組み込まれた。
さらに、北豊島郡から豊島区、滝野川区、王子区、荒川区、板橋区を、荏原郡から品川区、荏原区、目黒区、大森区、蒲田区、世田谷区が組み込まれ、東京市は35区となった。
これにより豊多摩郡、北豊島郡、南葛飾郡、南足立郡、荏原郡の5郡は区に吸収され消滅し、1市(市制特例市)と多摩地方の3郡、および島嶼部の大島・八丈島・小笠原の3支庁になった。
また、昭和11年には北多摩郡の砧村と千歳村を世田谷区に編入して、東京市の35区は現在の東京23区とほぼ同じ区域になるが、昭和18年、東京府の都制施行に伴い各区はそれぞれが東京都直轄の行政区となり、50数年間存在した東京市は消滅した。
戦後の昭和22年になると、麹町区と神田区は千代田区となり、日本橋区と京橋区は中央区など、35区の分離併合が行われ、現在の東京23特別区に組み変えられた。

 

3. 東京都多摩地方

 東京23区以外の多摩地方は東京都下とも三多摩地方とも言われており、その中の南多摩郡から独立した八王子市は昔の織物工業の町として、多摩地区ではいち早く大正6年に市制を施行し、現在は人口50万人を超え、大学のキャンパスが集中する文教都市でもある。
そのほか、南多摩郡からは南部の中心都市町田市と、日野市、多摩市、稲城市が独立している。
北多摩郡はいわゆる「武蔵野」で、明暦の大火後、水道橋の吉祥寺の住民が移り住んだ吉祥寺地区の武蔵野市や、三鷹市、現在の多摩地方の中心地である立川市、国府や国分寺があって郡役所があった府中市のほか、昭島市、調布市、小金井市、小平市、東村山市、国分寺市、国立市、東大和市、清瀬市、東久留米市、武蔵村山市、西東京市、狛江市と、17市の面積の小さな市が誕生して北多摩郡は自然消滅している。なお、一部区域は世田谷区に編入されている。
また市の命名で物議をかもした西東京市は、元埼玉県北足立郡だった旧新座郡の元保谷村が東京へ編入され保谷市となり、北多摩郡からの田無市と合併してできた市である。
西多摩郡の瑞穂町には、昭和33年に埼玉県入間郡元狭山村の一部を編入している。
島嶼部では、全国で唯一郡制が敷かれていない伊豆諸島は元々伊豆国に属していたが、明治11年に静岡県から東京府に移管され、現在は大島支庁、三宅支庁、八丈支庁の3支庁に分かれ、一時米軍統治を経た小笠原支庁を加え4支庁が置かれている。
東京都は現在、23特別区26市1郡4支庁となっている。

 

東京都の国郡と現在の主な市

旧郡(天保郷帳)
明治33(1900)年の郡
明治33(1900)年の郡の中心地と現在の主な市
武蔵 豊島(としま) 豊多摩(とよたま) 千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区、中野区、杉並区
北豊島(きたとしま) 文京区、台東区、豊島区、北区、荒川区、板橋区、練馬区
東京市(市制特例による市) (東京市は現在の千代田区、中央区、港区、文京区、台東区、の全域と、 新宿区の一部、墨田区の一部、江東区の一部、港区の白金地区)
葛飾(かつしか)
南葛飾(みなみかつしか) 墨田区、江東区、葛飾区、江戸川区
    (北部は埼玉県へ)     (埼玉県北葛飾郡)     (埼玉県区域)
荏原(えばら) 荏原(えばら) 品川区、目黒区、大田区、世田谷区
足立(あだち) 南足立(みなみあだち) 足立区
    (北部は埼玉県へ)     (埼玉県北足立郡)     (埼玉県区域)
多摩(たま)
(東多摩区域は豊多摩へ)
北多摩(きたたま) 立川市、武蔵野市、三鷹市、府中市、昭島市、調布市、小金井市、小平市、
東村山市、国分寺市、国立市、狛江市、東大和市、清瀬市、東久留米市
武蔵村山市、世田谷区(一部)、西東京市(旧田無市・旧保谷市)
南多摩(みなみたま) 八王子市、町田市、日野市、多摩市、稲城市
西多摩(にしたま) 青梅市、福生市、あきる野市(旧秋川市)、羽村市
伊豆 伊豆7島=郡指定なし 島庁(大島・八丈・小笠原) 大島支庁、三宅支庁、八丈支庁、小笠原支庁

郡名の太字は現在も存在する郡で細字の郡名は現在消滅した郡。

市町名の太字は郡の中心であった地域と東京市の区域で、細字の市・区名は郡域の多くを区域としている市区。

※明治33年の東京市の区域は旧豊島郡・葛飾郡・荏原郡(白金村のみ)から明治22年に独立した東京15区の区域。

※明治29年に旧南豊島郡と旧東多摩郡が合併して豊多摩郡となる。

※埼玉県北足立郡(旧新座郡)の旧保谷市区域は、明治40年北多摩郡へ編入した。

※参考:「府県制及び郡制」施行前、明治33(1900)年以前の地図  (東京府・東京市は1907年・1908年発行)
東京府  東京市  武蔵国  伊豆国

 

13.神奈川県へ

齊藤 忠光 (さいとう ただみつ)

齊藤 忠光氏

日本地図学会(JCA)/評議員/編集委員/地図と地名専門部会副主査
地図学、地域政策学、地域史が専攻。北海道生まれ。

株式会社武揚堂、国際航業株式会社、(財)日本地図センターなどに勤め、その間、25年間に亘って測量士養成専門学校で非常勤講師を務め、(社)日本地図調製業協会理事、(財)地図情報センター理事、日本国際地図学会常任委員などを歴任した。
現在、(公社)日本地理学会、歴史地理学会、日本地域政策学会などの会員でもある。

編著書に太田弘/齊藤忠光編・著『地球診断』(講談社)、分担執筆に正井泰夫監修『江戸東京大地図—地図でみる江戸東京の今昔』(平凡社)、日本国際地図学会編『日本主要地図集成』(朝倉書店)、和泉清司編著『近世・近代における歴史的諸相』(創英社/三省堂書店)などがある。